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2005年11月12日
ビゼー:歌劇「カルメン」
観る者すべてを狂わせずにはおかない、あまりにも危険な《カルメン》だ。その秘密は、もちろんカルロス・クライバーの魔術のようなタクトにある。ウィーン・フィルの音が、ドクンドクンと脈打つ鼓動のように高鳴りながら、妖しく、重く、しかもスピーディに、喉元に突きつけられたナイフのようなリアリティを持って迫ってくる――これを聴いて誰が冷静でいられようか! 映像をよく観ると、どんなに音楽が熱く燃えていても、クライバーの指揮はますます肩の力を抜き、リラックスした緩急自在でしなやかな動きで、オーケストラや歌手を鮮やかに翻弄する。
細部の描写に徹底的にこだわりぬいたゼッフィレッリの演出・美術は、まるで動く一幅の絵画のように美しい。舞台には生きたスペインの人々の熱気が充満している。この群衆一人ひとりの生き生きとした表情を見るだけでも何と楽しいことだろう。これぞオペラを観る醍醐味だ。
そして、何と言っても若きドミンゴの色気、声の艶やかな力が素晴らしい。特に「花の歌」や最後のシーンなどは、全身全霊をつくした絶唱で、ホセの愛がこれほど深いものだったのかと、思わずうならされるほどの圧倒的な出来栄えである。うるさがたのウィーンの聴衆も完全にノックアウトされ、劇場が異常な興奮のるつぼと化している様子が伝わってくる。ドミンゴのファンならずとも、このホセは必見である。対するオブラスツォワ(まだ若く痩身!)のカルメンは、情に厚く根は優しい女といった性格描写に不思議なリアリティがあり、近年のフェミニズム的な自由で強い女志向のカルメン解釈からすると、かえって新鮮に感じられる。リズム感はいまひとつだが、絶好調のドミンゴを相手に一歩も引かぬあたり、さすが大歌手の貫禄だ。
1978年ウィーン国立歌劇場のライヴ。最新の収録のものに較べれば、やや古い画質と音質だが、生々しさはよく伝わってくる。
78年12月にウィーン国立歌劇場で行われたビゼーの「カルメン」のプレミア公演を丹念にリマスタリングし、最良の映像と音声で収録。フランコ・ゼッフィレッリによる華麗な舞台・衣装演出と、エレーナ・オブラスツォワの好演が舞台を盛り上げる。
1978年12月9日、ウィーン国立歌劇場で上演されたビゼーの《カルメン》をオーストリア放送教会が収録した貴重な映像記録。
78年12月9日のウィーン国立歌劇場における伝説的な『カルメン』プルミエ公演のライヴである。颯爽とタクトを振り下ろすクライバーの指揮姿を目の当たりにして、魅了されない人が果たしているだろうか。全身から放射される強烈なエネルギーが生み出すスリリングな音楽は聴く者を震えるような感動の渦に巻き込む。つわものぞろいの国立歌劇場管弦楽団でさえ、必死の形相で踊るように舞う棒さばきに付いていく。テンポは千変万化し、アンサンブルは時として軋むが、火を噴く弦、咆哮する管の集中力は実に凄まじい。カメラは幕の途中もしばしば歌手を離れて指揮台を映し出し、神秘的な手の動きを捉える。舞台の出来事を隅々まで見通すクライバーの繊細な身振りがドラマを鋭利に形作っていくさまは、魔術としか言いようがない。\当時めきめきと売り出し中だったロシアの名花オブラスツォワのカルメン、37歳でまさに絶頂期にあったドミンゴのホセ、豪華な舞台装置で重厚な表現を生み出すゼッフィレッリの演出、そして何よりもクライバーがオーケストラ・ピットに入るということが注目を集め、ヨーロッパ全土に生中継された。オブラスツォワの力強い歌唱は幾分癖のある発声が気になるが、奔放さを抑えて女らしさを際立たせたユニークなカルメン像は彼女ならではの魅力を持つ。第二幕の「花の歌」で拍手が延々と鳴りやまぬほど絶好調の喉を聴かせるドミンゴも申し分ない。注目したいのはゼッフィレッリのきめ細かな演技指導。合唱の一人ひとりに至るまで、それぞれが人生を背負っていることが感じられるほどの活き活きとした舞台作りには頭が下がる。\今回のDVD化が初の正規発売となる映像。オリジナル・ソースから蘇った鮮明な画像と音質でクライバーの比類なき芸術に接することができるのは何ものにも代え難い喜びである。
投稿者 saikawa : 2005年11月12日 21:33
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